RKCU-2602 ¥2,300(税込価格)
レコーディング当日、スタジオに入りレコーディングが始まると、とにかく演奏が楽しくてそれまでの不安や緊張は全くうそのようでした。今でも忘れられないのが「シークレット・ラブ」を演奏したときのことです。私のソロの最初で崩した2ビートのリズム・セクションが、ソロのブレイクの後に強力にスイングする4ビートで戻ってきた瞬間、まるで強力な電流が流れる様な興奮を感じました。それはまるでロケットに乗っているようで、今でも忘れる事は出来ません。
常に笑顔で私を支えてくれたビリーは、マイケル・ジャクソンのムーン・ウォークをやってみせたりして雰囲気を和ませるなど、いきいきと愉快でとても素晴らしい人物でした。ビリーよりは少し真面目なシダーとも楽しくプレイ出来ました。この日本盤にはボーナス・トラックとしてシダーと私のデュオ「エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ」が収録されています。私の音楽の好みが歳月を経て変わった結果、この曲は今では私のお気に入りの1つになりました。伴奏者としてとても明解なプレイをするシダーとのデュオはとても楽しいものでした。とてもクリエイティブな彼のプレイにジャズの歴史のすべてを聴くことが出来るでしょう。
実は、このレコーディングの数年前には、ニューヨークでのジェームス・ムーディのアルバムへの参加や、ロンドンでジェイ・マクシャン、バディ・テイト、スリム・ゲイラードとの録音などの経験がありました。しかし、私の初めてのリーダー作であるこのアルバムにおいてシダー、デヴィッドそしてビリーの素晴らしいプレイヤー達に認められ、支えられ、そして自分のスタイルでプレイ出来たことは、何よりも幸運な経験でした。日本のジャズ・ファンの皆さんはジャズに対して深い知識をもっており、シダー・ウォルトンの素晴らしさはもちろん御存じでしょう。私は皆さんがこのアルバムをきっと気に入ってくれると思います。
演奏曲目について
●シダーも私もケニー・ドーハムの曲が好きで、シダーはニューヨークに移った初めの頃はケニーとよく演奏していたこともあって、この「ウナ・マス」はとても相応しい選曲でした。
●リハーサルの時にシダーが私に教えてくれた「エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ」は当時の彼のお気に入りの曲の1つで、私はジョン・コルトレーンのヴァージョンが好きでした。
●「ビューティフル・ラブ」は軽いジャム・セッションの演奏に、私の良き友人で、かつてカウント・ベイシーとプレイしていたビル・ラムゼイが5パートのトロンボーンを足して立派なテイクに仕上がりました。
●「シークレット・ラブ」はスタジオで即席アレンジで演奏した曲の1つです。私が思い描いていたリズム・バンプをバンドに伝えると、シダー達が即興で作っていきました。
●もう1つのスタジオ即席アレンジの曲、「センチになって」は、ブレイクでキー・チェンジする私のアイデアを元にシダーがバンプ・インタールードを考え出しました。
●「ミッドナイト・ワルツ」と「ジェイコブズ・ラダー」はシダーのオリジナル曲です。「ジェイコブズ・ラダー」にはビル・ラムゼイによるトロンボーン・アレンジを加えました。又、「ミッドナイト・ワルツ」では私の大きな口でフルートとフリューゲル・ホーンとテナーサックスを同時に吹いて…というのは冗談で、シダーがアレンジしたパートを後から足しました。
●メル・トーメの「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」は私の師フロイド・スタンディファーが好きだったブルージーなラブ・バラードです。
●シダーのアレンジによる「ブルー・トレーン」はトロンボーン・セクションとアフロ・キューバンのインタールードにより、このアルバムが最初に発売された当時のラジオ・リスナーにとって最も刺激的な曲の1つでした。シダーは同時に複数のグルーヴを重ねる天才で、この曲でも8分の6拍子のアフロと少しゆったりした4拍子を豊かなセンスで重ねながらも、決して走ることなく彼のプレイは最高にグルーヴしています。
●あるピアニストが紹介してくれた雰囲気たっぷりのバラード、「グロリア」は「インビテーション」や「オン・グリーン・ストリート」の作曲者ブロニスラウ・ケイパーのあまりよく知られていない曲の1つです。ヨーロッパでフランシー・ボラン・ビッグ・バンドが録音したことがあるようです。
●もう1つの美しいバラード、「サム・アザー・タイム」はレナード・バーンスタインによる曲で、ビル・ラムゼイによるトロンボーン・アレンジ、シダーのフェンダー・ローズに加えて、ルイス・ペラルタのパーカッションが華を添えています。彼は南アメリカ出身のパーカッショニストでディジー・ガレスピーのツアーに参加しており、たまたまシアトルに来ていたところを、このレコーディングに参加してもらいました。彼の素晴らしいパーカッション・ワークは時にはステレオの左右に飛び回り、まるで流れ星のようです。
●「リトル・ティアー」では私の妻でヴォーカリストのベッカ・デュランを迎え、彼女のスムースで艶のある歌声がフィーチャーされています。またフルートとハーモナイズするインタールードはベッカによるものでとても効果的です。ビル・ラムゼイによるトロンボーン・アレンジも特徴です。余談ですが、かつてサラ・ヴォーンをはじめとした素晴らしいシンガーをかかえたレーベルのオーナー、アルバート・マルクスがベッカの歌を聴くとすぐに彼女をサインしたがりました。スコットランドのヘップ・レコードも彼女をサインしたがっていたのですが、私達がアルバート・マルクスと契約した直後に、彼はこの世を去ってしまいました。
このレコーディングはアルバート・マルクスのレコード・レーベルからリリースされました。私はシダー・ウォルトン・トリオという素晴らしいバンドに支えられて出来た初のリーダー作にとても喜びました。全ては、私の父の支えと、そしてシダー・ウォルトン、ビリー・ヒギンズ、デヴィッド・ウィリアムス等のサポートとミュージシャン・シップのおかげす。
皆さん楽しんでください。
Jay Thomas